501話
■一歩一歩、着々と迫る勝負の瞬間——。
「見ろ 趙西部討伐軍だ」
「すっ すごい数だ」
「ひェェ どこまで列がつながってんだ」
「余裕で十万はいるぞこれは」
「連合軍らしいぞ」
「大将はあの王翦将軍だ」
「桓騎将軍もいるぞ」
「旗を振れっ」
河了貂「赤連城だ 信」
「秦国万歳」
「秦国万歳」
信「ああ」
「大分もう来たな」
河了貂「うん」
(“赤連”まで来たってことは兵糧を隠し集めてるっていう“金安”まであと二日だ)
(おそらく“金安”が進路変更地点だ)
(集結した兵糧をつかんで一気に南東へ道を変える)
(つまりそこで“李牧にばれる”)
(そこからは単純な競争だ)
(秦軍(オレ達)が先に“王都の蓋”列尾を抜いて王都圏に侵入するか 趙に先に“入口”を固められ侵入を阻止されるか)
(何も聞かされていない軍の金安からの進路変更が大きな山だ)
(もたつけば趙軍にあやしまれるし そもそも進路変更に失敗する恐れもある…)
(つまりは総大将・王翦の手腕に全てかかっている———)
空を見上げる王翦「……」
「全軍 小休止だ」
王翦軍「!」
「ハ!」
「小休止」
「小休止だー」
「小休止ー」
「全軍止まれー」
蒙恬「こんな所で?」
兵士「妙ですね」
「小休止ー」
王賁「……」
桓騎軍の兵士「ンだ 王翦のダンナは腹でも痛ェのかァ!?」
「クソで小休止かよ ギャハハハ すげェな総大将は」
渕「何か先頭で問題があったのでしょうか」
信「知らねーよ」
河了貂(何やってんだ王翦将軍)
(金安に近づいて不自然な行動は取るべきじゃないのに…)
空を見上げる羌瘣「……」
「……雨か」
雨は本降りになり、兵士たちはテントを立てて本格的に休んでいる。
兵士「ヒャヒャヒャ小休止で助かったぜ」
「ビショ濡れになるとこだった」
「すげェなこの雨 しばらく止まねェぞこりゃ」
山の民「(平地の兵はこの程度の雨で進軍できぬのですか?)」
楊端和「(進軍はできる)」
「(だが今は“得策ではない”)」
桓騎「雨ン中の行軍はバカみてェに疲れるからな」
「体力温存しとけってことだろ」
「ま——逆に言えば…」
「“走る時は”とことん走らすぞってことだ ククク」
蒙恬「なるほどね…」
(てか何で雨降るの分かったの?)
河了貂「そういうことだったのか…」
信「どういうことだ」
河了貂(でも雨による軍の疲労まで考えるなんて…)
(きっと将軍は相当細い計算をやっている)
「軍の体力調整…」
「王翦将軍の“本番への助走”はもう始まっているんだ…」
【趙西部最前戦地 什華】
「報告!秦軍は二日後には金安に着きます」
「そこから黒羊までは五日です」
「黒羊一帯には未だ大きな動きはありません 連合軍の到着を待っていると思われます」
「舜水樹様 李牧様がそろそろ武白へ戻り本陣に加われと」
舜水樹「分かった」
「備宇 ここは任す」
「些細なことでもいい 何かあったらすぐに武白に知らせろ」
備宇「ハ!」
舜水樹「伝者達 俺に他に報告しておくことはないか?」
伝者「……」
「あの…一つだけ」
備宇「?」
舜水樹「何だ?」
伝者「敵の兵糧中継地“金安”に潜らせてる間者なのですが」
「今すでに五人が“消息不明”に」
舜水樹「五人も!?」
「金安だけでか?」
「……」
舜水樹「……他の所でも“殺られた”者がいるのか?」
伝者「いえ」
「運搬者の中にも一人も」
舜水樹「…………“金安”?」
「“金安”だけが他より警備が厳重だとでも言うのか…?」
「ただの兵糧中継地をなぜそう厳重に警備する…?」
ブツブツと独り言を始める舜水樹。
「それは」ブツブツ
伝者「?」
備宇「!」
舜水樹「それは」
「“金安”が」
「“ただの中継地ではない”からだ」
兵士1「舜水樹様?」
兵士2「静かにしろ」