あれは19年の秋ごろだっただろうか。朝の調教後、栗東トレセンの馬場出入り口付近で、福永と岩田望が立ち話を始めた。すぐに終わると思って近くで待っていると、なかなか終わらない。よく見てみると、話しているのは福永だけ。身ぶり手ぶりを交えた「熱烈指導」に対し、岩田望は直立不動で時折うなずくだけだった。
その終盤、福永がトーンを高めて言った。
「お前のことを、うらやましく思っているジョッキーはたくさんいるんやで」
当時ルーキーだった岩田望は、師匠・藤原英師の配慮もあって、多くの有力馬にも騎乗していた。しかし、期待通りの結果を残せたわけではない。その年の新人賞は5勝差で斉藤新の手に渡っていた。岩田康の息子として注目されながら“プロの壁”にぶつかる岩田望。そんな姿を目の当たりにして、自身も“2世騎手”としてデビューした福永は、見て見ぬふりなどできなかったのかもしれない。長い指導の最後、強烈に奮起をうながしたように見えた。
福永大大力屌鳩岩田望
